君は悪魔か少女になって

来世は高校球児になりたいOLの日記

松田さん

私の担当しているお客さんの、松田さん。

私はその人のことが、めっちゃ好き。

85歳のおばあちゃんなんだけど、めちゃくちゃ喋るし、よく笑う。そして老人が嫌いらしい。「老人なんかと一緒にいても葬式か介護の話でしょ。何が楽しくて生きてんのかしらね。あら、茜っていい名前ね、若くて未来があっていいわ。毎日来なさい」っていつも言われる。帰りに持ちきれないくらいお菓子持たされて帰るのが楽しみ。

名前を褒めるくだりは訪問するたびに行われるし、物忘れが激しいから「え!あなた茜って名前なの!?いいわね〜!!」って毎回いいリアクションしてくれるのも好き。子供が女の子だったら茜にしたかったんだって。いい話だね。

 

松田さんのなにより好きなところは、今でも翻訳家の仕事をしているところ。

未だに夜更かしして本を読みふけっては寝不足になることが多いようで、わたしが訪問する昼過ぎにチャイムで起きることがある不摂生人間。いつも面倒くさそうに出てくるのに、結局3時間くらい松田さんの喋りを聞いている(わたしも仕事しろ)。

子供の頃から本が好きで、戦後間も無い当時の中学校の図書館に置いてある書籍は全巻読んで卒業したらしい(卒業間近、間に合わなくて授業中もヤケクソなって読んだけど今思うと頭おかしかったなって思うらしい。)変な人。

85歳でも毎日好きなことを仕事にして、その世界観を大切にしている生き方が見ていてとても美しいなあと思う。

「小説に出てくる人間の人生は、一つひとつの小さな選択の積み重ねでしょ。外国の文学は特にそうだけど、生活や文化や思想が見え透くのがとても興味深いの。人間っていいわよ」

老人は嫌いなくせに、人間の良さめっちゃ語るじゃん・・・って思うけど、ドヤ顔で語ったあと、間違って犬のおやつ食べちゃった松田さんの笑い方がまた豪快で、あ〜、永遠に松田さんは松田さんであれ。と、思いました。